26 #2

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26 #2

ーーー春野ーーー マリーさんのお店、“よるふくろう”で、テツと二人で飲み会中だ。 それもなんと、お着物を着ているあたし。 『とにかく、慣れるためだから。』 マリーさんに言われてしまった。 確かに着物を着ている時のあたしの所作は心もとなさすぎる。 教えてもらった通りに、やや内股で、歩幅を小さく歩いたり。 座るときだって、帯を潰さないように浅く腰掛けなきゃいけない。 「テツ、ゴメンね、休みの日だっていうのに。」 「オレはいいけど、ハルちゃんいいのか?」 「うん?」 「中川さん。」 「・・・多分。」 「おいおい。」 2人ではははー、と乾いた笑い。 「ていうか、なんでオレ?」 「うーん。あ、ほら、カズがいなくなって、テツは結構大変でしょ?だからお疲れ様会?」 「ハルちゃん、オレ全然疲れてないから。」 「うん。テツは体力バカでカズは筋肉バカだもんね。」 「そうそう。」 カズの名前が出て、あたしはちょっと悲しくなる。 あまりにも突然に、カズはいなくなってしまった。 『またすぐ会いに来るから。』 大阪は、ちょっと思いついて散歩に行くような距離じゃない。 やっぱりあたしは泣いてしまった。 「元気かな。」 「うん。多分。」 「また会えるよね?」 「ああ。」 テツさんのグラスがカラン、と音を立てた。 あたしはボトルからドボドボそそぐ。 「さっ、飲もう。」 「ハルちゃん、入れ過ぎ。」 グラスから溢れて、高級ブランデーがこぼれてる。 「わっ、ごめん、ちょっと待ってて。」 あたしは奥へ行って、おしぼりを借りてきてテーブルを拭いた。 「なあ、ハルちゃん、テーブルより、着物大丈夫?」 「え?汚しちゃったかな?」 「うーん、微妙。カオルさんに見てもらえば?」 「うん。」 あたしは立ちあがってカオルさんを探す。 “あちら”のテーブルにいたカオルさんは、あたしの視線に気づいてくれた。 着物の袖を持ってゼスチャーしたけど、伝わらないみたい。 おいでおいでと手招きされた。
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