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エアコンをつけていない7月の夜は、動かなくても汗が出るほど蒸し暑い。それなのに寒気がする。昼間、ルイスとの外出で発汗したのが信じられないくらい今は全く汗が出ない。
寒さは、不安を煽る思考回路を活発にさせる。自分が養子であることを考えていると、それに連なり嫌な記憶が次々と胸によみがえった。せっかくルイスと楽しい時を過ごしたのに、それは無意味だったと言わんばかりにシャルと別れた時のことが色濃く浮かび上がるのはなぜなのか。
「あんな優しい人に嫌われるって、私、どこまでダメな女なんだろ……」
厳しい現実から目をそらすようにルイスとの時間を思い出そうとした。まだ首についているネックレスの石を両手で強く握りしめる。
「ルイスは私のそばから居なくならないよね…?」
求めれば求めるほど、両手から大切なものがこぼれ落ちていく。そんな気がして恐かった。
(私は何も求めるべきじゃなかった?そもそも、エトリアの指輪を買ったりしなければ、シャルのことあんなに傷付けずにすんだ……)
涙がにじむ。頬はひどく熱を持つのに、体は寒さで震えたままだ。歩くことも億劫に感じる体を何とか動かし、押し入れにしまってあった冬用の毛布を引きずり出してきた。それを頭から羽織ったところで、ノックの音が響く。
「姉ちゃん、入るよ?」
「えっ、ちょ……!」
あいなの返事を待たず入ってきて、龍河はさっそく悲鳴に近い声をあげた。真っ暗な部屋で姉が毛布をかぶっている姿に驚いたらしい。
「びっくりした!一瞬、座敷わらし的な何かかと思った!」
普段ひょうひょうとしている龍河の驚く様が面白く、あいなの不安定だった気持ちは少しだけ落ち着いた。
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