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「ありがとう、お母さん。お父さんと龍河も、心配かけてごめんね。寝たらすぐ治るから」
あいなは今、心からの笑みを家族に見せた。本当の両親じゃないが、言葉にされなくても深い愛を感じる。昔の記憶はなくてもかまわない。今、自分がこうしていられるのはここに居る家族のおかげなのだから。
(シャルとの結婚は無くなってしまったけど、きっといつかいい人に出会って、お父さんとお母さんみたいな夫婦になりたい)
短冊にルイスとの幸せな未来を願えなかった理由はひとつ。
(私は、ルイスのことを……)
考えているうちに眠気が訪れ、思考は停止した。シャルとの別れは予想外のことでひどく悲しかったが、家族のあたたかさが傷付いた心を優しく包み込んでくれる。
(私は一人じゃない、よね……)
そのまま、何分も経たないうちに寝てしまった。あいなが眠ったのを見守り、龍河達も部屋から出ていった。
――起きなさい。私の可愛い生(い)け贄(にえ)。
「っ……!!」
夜中、あいなは突然目を覚ました。誰かの声が頭の中に大きく響く。聞いたことのない女性の、怒りに満ちた、それでいて悲しげな声音。
――ねえ、教えてあげましょうか?あなたの実の両親のことを。
「だ、れ……なの?」
だるい体は金縛りにあったかのように動かないが、唇だけは動かせる。あいなのか細い声を無視し、某(なにがし)は一方的に言葉を紡いだ。
――あなたの母親は若くして未婚の母になった。異性関係が奔放な人だったから父親が誰かも分からずあなたを産んだ。周囲に頼れる人も無く一人であなたを育てるうちに、彼女はノイローゼになりあなたを虐待するようになった。
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