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優雅に微笑しながらも、エトリアはどこか焦った様子で語った。
「短い間でしたがあなたはエトリアの指輪を身に付けていました。その間に少しずつ、指輪に込めた私の魔力があなたの心に浸透していたのです。指輪には、魔力だけでなく、私の残留思念も込められていたのです」
指輪を通して外の様子を見ていたエトリアは、あいなの身に起きたことを知っていた。
「カロスがあなたに吸わせた催眠剤の効果がギリギリの所で抑えられたのも、指輪を通して私の魔力が催眠剤の薬効をブロックしていたから。でも、それも長くはもたなかったし、あなたの心に眠る過去は大きすぎた……」
「……私の過去」
あいなは思い出した。さきほどまで魘(うな)されていたことや、某(なにがし)に聞かされた自分の生い立ち。
「私の実のお母さんは、私を捨てた……」
あいなの声は震えた。今は不思議と寒気や頭痛は治まっているが、孤独感で胸が冷える。血のつながりはないが自分には家族がいる。それなのに、実の母親に見放された時の感情が昨日の経験のように記憶によみがえってくる。
「どうして今まで忘れていられたんだろ……」
防衛本能で忘れていた記憶も、今はもう消せそうにない。エトリアはそっとあいなを抱き寄せた。
「……あなたの弱みにつけ込み、エスペランサは再び悪の心を増幅させようとしています。それを止めるために私はここに来ました」
「エスペランサさん?」
「あなたの過去を語ったのはエスペランサ。エスペランサは、私の双子の姉なのです」
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