83人が本棚に入れています
本棚に追加
取り乱すあいなを前に、エトリアは毅然としていた。
「本気で愛する人との結び付きを実感出来た時、あなたは元に戻ることが出来ます」
「……!」
「あなたは生まれてすぐに悲しい体験をしました。それは変えられない過去です。ただ、信じてほしい。心の傷を癒すのは人にしか出来ないこと。どんなに発達した科学や魔法も、人の想いには敵わない。エトリアの指輪は元々エスペランサの悪事を静めるために作った魔法道具なのです」
「そんなこと言われても…!」
「あなたは愛を知っている。私があなたに接触出来たのが何よりの証拠です。どうか、愛することを恐れないで」
柔らかくも切ない声音は、あいなの胸に重たく深く響いた。エトリアの姿は、煙を散らしたかのごとく薄紫色の空間に消える。
「…………私は」
今、心にある人物を思い出し、胸が痛んだ。
「そんなこと言われたって……。私は恐いです。愛されることも、愛することも…!」
息苦しくなる。ここから逃げたくて仕方ない。
助かる方法は分かっているのに、あいなはそれを素直に実行する気になれなかった。以前、秋葉にアドバイスされても恋愛マニュアルを読む気になれなかった時の心境に近い。
最初のコメントを投稿しよう!