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そんなものが実在するなら自分も使っていたかもしれないとあいなは一瞬考えてしまったが、人の意思を自在に操る薬だなんてよく考えたら覚醒剤並みに恐ろしい物だ。ぶんぶんと首を横に振り、あいなは甘い思考を振り払った。
「それは完成したんですか?」
「したわよ。惚れ薬の件がエトリアに知られて私は永遠に葬られることになったの。彼女の魔法でね」
「そんな……!」
いくら何でも、その罰は重すぎる。あいなはそう思ったが、当時のエトリアはエスペランサの行動を許さず厳しい見方をした。
「エトリアが怒るのは当然だったの。媚薬の効果は、目的の一人に飲ませるとその相手の体から空気感染して不特定多数の異性に薬効が出てしまう。妻の有無に関わらず大多数の男が私を求めて追いかけてきたわ。必死で逃げたけど、逃げるだけでは問題解決にならないし収拾がつかなくなるほど大事(おおごと)になった。私を殺すことでしか薬の効果は消えないと判断して、エトリアは私を――」
媚薬の効果を実感したエスペランサはみじめになった。目当ての男性に振り向かれて嬉しかったのは、本当に最初だけ。
「容姿はエトリアと何一つ変わらないのに、少しの違いが私達姉妹に大きく差をつけた……!死んだ後も、私はやる瀬なかった。自分の立場が、愛が、何もかも無意味だったと知って……」
魔女村の墓に埋葬された後も、エスペランサは長年、無意識に意識を保ってきた。死んだ時の記憶が、時代の流れと共に風化していく。
「そんな時、幼いシャルがカロスの公務に引っ付いて私の墓を訪れてくれた。それがただただ嬉しかった。私のことを知る人が誰もいない時代だから、存在を気にかけてもらえたことがよけい心にしみた。だから私は、彼にだけ特別な力を授けることにした」
「シャルから聞きました。匂いのことですよね?」
「そうよ。彼には、運命の輪で繋がった相手に自分の香りを強く感じさせる能力がある」
運命の輪で繋がる相手とは、生涯の親友や伴侶のことを指している。
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