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「誕生日なんてどうだっていい!あいなを助けたいんだ…!」
無力な自分が情けない。シャルは、小さく机を叩くことで行き場のない感情をなだめようとした。そんな時、
『その愛が本物だと言うのなら、戦う強さを身に付けなさい』
涼やかで冷静な女性の声音が頭の中に響いてきた。それと同時に、左手薬指のエトリアの指輪が一瞬だけ青く光る。そしてまた、元の真っ黒な石に戻った。
「指輪が…!誰なんだ!?」
シャルは声の主に尋ねる。
「もしかして……」
『そうです。私はエトリア。あなたの祖先であり、ロールシャイン王国初代女王を務めた人間です。その指輪に残ったわずかな魔力を頼りにこうしてあなたに話しかけています』
「エトリア様……!本当に!?」
頭の中に響く声がエトリアのものだと知り驚いたが、この状況を喜ぶ気持ちの方が大きかった。シャルは泣き出したくなるのを必死に抑え、言葉を継いだ。
「戦う強さを身に付けたら、あいなを護れますか?彼女の未来は失われずに済みますか?」
『過去の経験で、あなたは他者を傷付けることを極端に恐れていますね。決して魔力は弱くないのに、攻撃魔法を自在に操ることが出来ずにいる……。それはあなたの優しさであり美しき防具。であると同時に護るための武器にはなりえない。そのままでは大切なものを失ってしまうのです』
「分かりました…!身に付けます。戦う強さを……!」
誰と戦うべきなのか。それを尋ねようとする前に、エトリアの声は聞こえなくなった。その時、
「……指輪が!!」
エトリアの指輪は跡形も無く消えてしまった。指輪に宿っていた魔力は、今の通信で全て消費されてしまったようだ。
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