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あいなの体から黒い靄(もや)が勢い良く立ち上ぼり、それがエスペランサの敗北を意味していた。
「この光は何!?シャルの愛が、強さが、臆病さが、全身に広がる……!ああっ…!!」
苦しげに呻(うめ)いたのを最後に、エスペランサの言葉は聞こえなくなった。その強力な気配もみるみる消えていく。
シャルの攻撃に胸を貫かれたあいなは、血を流して宙から床に倒れた。落下の衝撃で胸の鮮血が飛び散るのを見て、シャルは自分のしたことに改めて恐怖感を覚えた。全身が震えてくる。
「あいな!」
シャルの魔法が効いたらしく、あいなの体からエスペランサの魂は完全に消えた。しかし、まともに魔法攻撃を受けたあいなの肉体は危険な状態だった。
「すぐに肉体の損傷を治癒いたします…!」
「俺もやる!」
ルイスとシャルは同時に治癒魔法をあいなに施し、ハロルドは彼女の手を強く握った。
「あいな、死なないで!君がいなくなったら僕は……」
ハロルドの涙があいなの頬に落ちた時、彼女の唇がわずかに動いた。
「ありがとう、皆」
「あいな!今は何もしゃべらなくていい!」
治癒魔法を続けたまま、シャルはあいなを見つめた。泣いたらあいなの死が確定してしまいそうで、シャルは涙を我慢した。ルイスは、あいなの首に下がるネックレスの石を複雑な面持ちで見つめる。強力な術式を使って治癒魔法を使っているというのに、あいなの胸の傷は全く塞がらない。
瓦礫(がれき)まみれの荒れた儀式の間に、あいなの胸から流れた血液の赤が広がった。
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