1piece チョコレートな夜の始まり

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「こんな時間まで、残らなければならないほどの仕事を?」 東条さんは、私のデスクに片手を置くと、そう聞いてきた。 「あ、あの……!」 彼の甘く低い声に、頭がスパークして、用意しておいたはずの理由が口から出てこない。 直接触れられたわけじゃない。 彼が、私のデスクに触れた……ただ、それだけなのに。 鼓動が暴れて、胸を突き破ってしまいそう……。 「プ、プレ……っ!」 「はい?」 完全に挙動不審な女子社員に、東条さんの声が柔らかく聞き返した。 私は、窒息寸前の喉を軽い咳払いで整えると、ゆっくり答える。 「プ……プレゼン用の資料が、なかなか進まなくて……!」 おバカな私だけど、こんなに日本語を話すのが、難しいと思ったことはない。 ずっと離れた距離から見てきたのに、こんな突然、触れあえそうな距離に詰められて……。 気を抜くと、意識を手放してしまいそう。 私は、東条さんをまともに見ることすら出来ず、フロアの無機質な床に視線を落とした。
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