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私は昔から、意志が弱かった。
だから、力強さを感じる人には、自然に惹かれてしまう……。
「ほら。あと10分で、日付が変わってしまいますよ?」
甘く低い声に、思わず、フロアの壁掛けの時計を見上げた。
(あ……ほんとだ!もうすぐ、バレンタイン終わっちゃう……)
私は魔法がかかったみたいに、急に、焦りを覚える。
そんな私を見透かしたように、社長の手が、私の手を解放した。
解放された私の手の下には……不慣れなラッピングをしたチョコの箱。
(早く、社長に食べてもらわなきゃ……)
ギィィ……。
「……!」
突然響いてきた音に、ビクッとして見ると、東条社長が、私のデスクの隣の席の椅子を引き、こちらに向けて座ったところだった。
「さあ」
今の私と真逆の、余裕を浮かべた唇で、私を煽る彼。
私は震える指先で、真っ赤な包装紙に巻かれた金色のリボンを解いていく。
ただ、リボンを解くだけなのに。
こんなに緊張するなんて……。
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