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また、フロアに一人になった私は、この短時間の緊張から解放されて、崩れるように椅子に座る。
力を使い果たした心に、じわじわと嬉しさが込み上げてきた。
「名前……呼んでくれた」
呟きながら、首に掛かった社員証に手を当てる。
いつもは味気ない、ただのカードなのに、何だかあったかく感じた。
「でも、いつの間に、番号なんて打ち込んだんだろう?」
資料の間違いを直してくれた時は、その画面しか表示されてなかったし。
うーん……。
もしかして、私が、鞄からチョコレートを出す時、かな?
とにかく……番号を教えてくれるってことは、少しは気になってくれたって、思っていいんだよね?
そして、私は終電があと何分かってことよりも、東条さんの番号が気になって、一度落とされたパソコンをまた立ち上げる。
明かりを取り戻していく画面に、心が弾んだ。
これが……彼と、私の。
チョコレートみたいに、
甘く苦い、恋の駆け引きの始まりだと。
気づかないままに…………。
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