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「まだ……いたんですか?」
電気を消してあるフロアの入り口に、長身の淡いシルエット。
噂、ほんとだった……。
そこには、憧れのままの『彼』が、フロアに残る私を真っ直ぐ見つめている。
「あ、あの、ええっと……!」
いつも遠くから一方的に見るだけだった彼の視線をいきなり受けて、私は機械仕掛けの人形みたいに、椅子から立ち上がった。
完全にテンパった私の口は、まともに機能しない。
そうしてる間にも、彼はカツカツと聞き心地のいい靴音を鳴らしながら、こちらに向かってくる。
体が、驚きと、込み上げる喜びで震えた。
彼は私のすぐ目の前まで来ると、その足を止める。
ヒールを履いて、160センチちょっとの私は、彼を見上げた。
今夜の彼は、入社式と同じダークグレーのスーツを着こなしている。
切れ長な黒い瞳は、夜を思わせるほど深くて、こちらの心を見透かしているような……そんな色をしている。
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