第3章 秋入梅 ~あの時の…~

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「ただいま~」 伊葉は、子猫たちを,とてもとても大事そうに抱えて帰宅した。 「おかえりー!  ねえ,ねえ,早く早く  見せて見せて!」 「ミャウミャウ~」 母とレモンが駆け寄ってきた。一週間前のデジャヴのようだが,今日は違う。 「ちょっと待って,  びっくりしちゃうでしょ」 伊葉は、母とレモンを諫めて,カゴをリビングへ運ぶ。その間もキャリーの中では「ミィ ミィ!」という元気の良い鳴き声が聞こえていた。 「きゃあ,かわいい声!  早く早く!」 母は,この数年で,一番楽しそうな声をあげている。子猫たちは,思った以上に母とレモンに歓迎されているようで,伊葉はホッとしていた。 子猫たちの声か,母のうれしそうな声か…とにかく,その様子を聞きつけて,ミカンとネーブルも近寄ってきた。母とレモンたち3匹が覗き込み,子猫たちが入ったカゴを開けようとしたとき,玄関で音がした。 「ただいま」 伊葉の父が帰ってきた。普段は,父の声が聞こえると母は玄関へ走っていくが,今日ばかりは,子猫優先の様子。いつもなら駆け寄ってくる母が来ないので,父がキョロキョロとあたりの様子をうかがっていると 「お父さん,いいタイミング。  早く早く!」 と,母の大きな声が,リビングから響き渡った。 「ん?なんだい」 父は,いつものように,落ち着いた声で応えた。リビングへ入ると,母と3匹がテーブルを囲んでいた。 「ん?もしかして」 父がそう言うと,母は大きく頷いた。 レモンたちも興味深そうに,カゴをのぞき込む。 「驚かしたらだめよ」 伊葉はそう言いながら,そっとカゴのふたを開けた。 カゴの中には,よちよちと歩く,小さな小さな子猫が2匹。 「わー! かわいい!!」 母がうれしそうな声を上げると, 「おや,小さいなあ」 父は,いつもの穏やかな声で,にこっと笑った。さすが,根っからの動物好きだなと伊葉は思った。母も父も猫が大好きで,伊葉は間違いなく二人のDNAを受け継いだなと,自覚していた。 カゴをのぞき込んで,不思議そうに見ているレモン・ミカン・ネーブルに伊葉は話しかけた。 「ゆずと はっさくだよ。  みんな仲良くしてあげてね」 伊葉はレモンを撫でながら,子猫たちをみつめた。
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