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昨日の子猫は,獅虎の見立てでは,2~3か月の大きさだった。
伊葉がずっと温めていたので,すっかり元気になり動き回っていた。
心もち,大きいかな?という方の猫が,獅虎に飛びついてきた。
「わ,なんだ。元気いいな」
「ミャウ~」
大きい方の猫は,獅虎の胸の中で,グルグルとのどを鳴らした。
「…かわいいな」
獅虎はそう言うと、子猫の喉を撫でた。
「ねえ…お兄ちゃん…」
伊葉は昨日と同じ強い 凛としたまなざしで獅虎を見つめた。
「この子……連れて行って!」
「え……!?」
獅虎は驚いた。
こんなに大切そうにしているのに…
獅虎は不思議だった。
「なんだよ,2匹飼うの
嫌になったのか?」
「違う!!」
伊葉は下を向いて……,涙をポタポタ落としながら,こう……つぶやいた。
「この子たち,兄弟だから。
この子がいたら,お兄ちゃん,
会いに来てくれるでしょ?」
獅虎は戸惑っていた。
伊葉は、自分にまた会いたいから、そんなことを言うのだろうか。
でも今の伊葉の覚悟を決めた表情からは、もっと深いものを感じていた。
もしかして、伊葉は,俺が孤独を感じていることに,気付いているのだろうか。
そして,獅虎は,なんとなく,この猫は,自分のところに来るべきなのかなと思った。
「もう,名前決めちゃったの。
ライムっていうの。
お兄ちゃん,ライムのこと
よろしくね」
目には,まだ涙の跡が残っていたが,また,あの凛としたまなざしで伊葉は言った。
「え…でも…」
獅虎が困った顔をしていると,伊葉は,獅虎に抱かれたライムを撫でながら言った。
「ライム,
かわいがってもらうんだよ。
そして,またレモンと私に
会いに来てね」
伊葉はそういうと,強く頷いた。
獅虎は,困った表情をしながらも,伊葉がこの「ライム」を自分に託してくれたのには,何か意味があるのではないかと感じ始めていた。
「ホントに…いいのかい?」
獅虎はもう一度,伊葉の顔をのぞき込んだ。
伊葉は何度も頷く。
その表情を見た,獅虎は,あらためてライムの顔を見た。
「ライム…? よろしく…」
そういうとライムは「ミャオウ」と大きな声で鳴いた。
獅虎は,ライムを連れ帰り…そのまま生まれ育った家を出た。
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