【 あなた 】

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  JR青梅線を立川駅より下りで約25分。 せかせかと慌ただしい都心からは、大分離れた静かな田舎町。 私は今、その場所へと向かうため。 お気に入りの小説を膝の上で小さく開いくと、横揺れに流れ抜く穏やかな景色を背に、心をそっと落ち着かせている。 《 ガタンゴトン… ガタンゴトン… 》 〈 本日は… ありがとう御座いました。… 次はぁ…駅ぃ… 小作駅に停まります。 〉 車掌さんの車内アナウンス。 《 プシュー 》 〈 小作駅ィ~。小作駅に到着です… お降り… さい。〉 扉の開く、まるで空気の抜けたような音。 相変わらずの車掌さんのアナウンス。 《 パタム 》 わたしは。本を静かに畳んでハンドバッグへと収めると、そのままゆっくりと電車を降りた。 「ふぅ~。疲れたぁ… 」 立川と小作との往復。 数年前迄は何でもなかったこの距離も、流石に三十路も過ぎると少し負担に感じる様になって来た。 あの人の言った通りだ。 わたしは。駅の改札を出ると、そのまま右手に進路を進めて、コンクリート造りの簡素な階段をヒールの音を小刻みに奏でながら、転ばないようにとゆっくり降りて行った。 もう来ているかしら? 駅前のロータリーでは、主人が車で待っていてくれている筈だ。 そう。 ここは『小作駅』 東京都ではあるものの、その雰囲気は凡そそのイメージからは遠くかけ離れている田舎町。 わたしは。その山々に囲まれた和花-ノドカ-な町で、自宅を兼ねた喫茶店を営んでいる。 《 コッコッ… コッコッ… 》 出来ることなら今すぐにでも裸足にでもなってしまいたい。 そんな衝動にかられる。 僅か5㎝程の低いヒールも、私には少しストレスなのだ。
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