12人が本棚に入れています
本棚に追加
階段を降りきり、穏やかな日差しが身体を照らす。
わたしは。片手を顔の前へと挙げると、日よけ代わりに傘をつくった。
《 ファファッ!! 》
…?
聞き慣れた車のクラクション。
尚も片手で日差しを避けながら、わたしはその音のした方へと視線を向けた。
あ… やっぱり。
そこには主人が運転席で待つ、エメラルドグリーンとホワイトカラーのツートーンが可愛らしい、愛車の『フィガロ』が停車していた。
わたしの自慢の愛車だ。
わたしの… と、言うのも。
普段から車をあまり必要としない主人は、免許こそは取得しているものの自身の車は持っていない。
当時。知り合ったばかりの頃に、池袋のとあるホテルの最上階にあるBAR で夜景を楽しみながら会話をしていた時に、わたしはそれについて聞いてみたことがあるのだけれど。
「う~ん。都内までなら電車でいいし、正直車の運転は好きじゃないんだ」
… との事だった。
そのときは。まさかこの時代に車が無くては普段の仕事や生活等はどうしているんだろう?と驚いたりもしたけれど。
今にして思えば、主人にはそれも要らない心配だった。
その為。こうしたお迎えの時などは、主人がわたしの車のハンドルを握るのだ。
わたしの可愛いフィガロくん。
お店と主人を除けば、わたしの一番のお気に入りは間違いなくこの子、"フィガロくん"だ。
いつかは絶対これに乗るんだと、常々憧れていた大好きな車。
もう。2度も車検を行い、かれこれ5年も乗り続けている。
勿論。
次の車検も"この子"で行うつもりだ。
《 コッコッ… コッコッ… 》
あぁ。
早くヒールを脱いでしまいたい。
そう思うと。早く車に乗りたいと、一度主人に手を振ると、少し足早にわたしは歩いた。
最初のコメントを投稿しよう!