第一章 転移

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西暦 2010年 8月15日 帝都 東京 対米戦講和記念日のこの日は、陸軍による盛大なパレードが行われていた。 陸軍分列行進曲の勇壮な旋律に合わせ、在京部隊の歩兵2万人が行進し、その上空には空軍部隊の戦闘機隊が見事な編隊飛行を披露する。 64年前の1946年8月15日 大日本帝国及び大英帝国とアメリカ合衆国との戦いは講和という形で、終止符が打たれた。 晴天の空の下、弔銃の発砲音が響き渡る。 金刀比羅宮において、海軍の戦没者慰霊祭が今年も実施されていた。 軍楽隊の演奏する「命を捨てて」の旋律を胸に刻み込む男がいる・・・ 海軍中将の吉村だ。 ハワイ近海で行われた日米海軍合同演習では、日米合同艦隊の、司令官として参加していた。 ベルリン、ロンドンでは駐在武官を勤め、英語やドイツ語が堪能な彼の評価は国内のみらならず同盟国の将校からも評価が高い。 「そろそろか。」 視線を転じた先、士官が一人近づいてくる。 吉村は軽く頷くと、集まった将兵らの前に立った。 そして、その顔を見渡す・・・・ 若き少尉候補生の集団を一瞥した後、一呼吸置いて口を開く。 「注目!! 大戦終結より、既に64年が過ぎた。 現在、米国と我が国は固い同盟の絆によって結ばれ、半世紀以上に亘って我が海軍と積極的な交流関係にある。 日本海軍は、アジアを、そしてこの広い太平洋の正しき秩序を護るために、米国海軍との関係をより緊密なものにしなければのらない! 諸君は・・・・・」 吉村中将の言葉は続く。 広島県呉市 記念艦「大和」の艦尾旗竿に軍艦旗が翻る。 今日も大和は、何時もと同じ日常を呉の街とともに迎えていた。
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