第六章 代償は屍の山

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「何かご用でしょうか」  忙しいときに出てくるなと言わんばかりのぞんざいな態度である。マケンガ大佐も素知らぬ顔で言葉を返す。 「中将閣下の命令で指導を始める。状況報告を行え」  上から押さえ付けるように要求を突き付ける。中将の名を出されては如何ともし難く、かいつまんで報告することにしたようだ。 「南門、北門は防戦中。東西は突破を許し、広場で交戦中」  ――見れば解る、数や有利不利を聞いているんだよ。  アラビア語だった。ソマリ語で困るのはマケンガ大佐も同じらしい。 「西の指導を行おう。戻れ」  ようやく解放されたと大尉がそそくさと行ってしまう。今呼び止めても聞こえない振りをするかも知れない。  ――何とかしてこちらが俺達だと知らせねば、砲撃で吹き飛ばされちまうな。通信機を手にいれたいところだ。  大佐が西へ向かうので、二列縦隊でついて行く。ソマリア兵は誰も疑問に思わないらしく、見掛けても呼び止めなかった。本来ならば教官が兵を率いているのはおかしいのだが、戦時特有の思い込みで当たり前に見えてしまったのだ。
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