第一章 自宅は海辺の丘に

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 ショッピングモールに入ると、彼女は娘を夫に譲り渡し物色に出掛けた。島はベンチに座り娘の寝顔を見詰める。  ――チュニョもこうやって抱いてやったものだな。  ふと昔を思い出した。生きていれば幾つになったか、数えようとして止める。  ところどころにエスコーラの護衛らしき男が立っていた。  ――ゴメスには苦労をかけるな、エーンと相通ずるところがあるらしい。  職務よりは使命感が優先されるようで、四六時中指揮を執っていた。  それでいてエスコーラの主軸から外れているのだから、島も理解が進む。 「おや可愛らしいお子さんだ」  老紳士が話し掛けてくる。杖をついてベンチの反対隣に腰を下ろした。 「ありがとうございます。こんな小さいのが確り育つものかと不安です」 「はっはっはっ。私も初めはそう思いましたよ、男は大抵そうなのかも知れませんね」  不思議な生き物との感覚は共通しているらしく、そうだったと頷いている。そして妻が買い物中だと笑いながら漏らす。  ――何十年か先に俺もこうなっていそうだ。
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