第一章 自宅は海辺の丘に

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 他愛もない雑談、平日昼下がりにゆるりとそんなことをしている者は少ない。 「困ったら年寄りを頼りなされ。世に悪人はそういないよ」 「はい、そうさせていただきます」  ――悪人は居ないか。俺はそんな台詞をいつになったら言えるものかね。  外は明るいがどれだけ時間が経ったやら。ロサ=マリアが目をさまして泣き始めてしまった。  あやしたりはしてみるものの、どうにも泣き止まない。  ――さてはオムツだな。かといって俺が持っているわけでもないし、参ったな。  悩んでいるとベビーカーを押した若い女性が「良ければお使いください」紙オムツを分けてくれた。 「ご親切に申し訳ない。妻が戻らなくて」 「お気遣いなく」  そう言うと女性はにこやかに去っていった。  ――なるほど善人が圧倒的多数なのは解った。  トイレにつれて行き慣れない手つきで何とか解決する。  不謹慎だが戦争をしていた方がまだ気が落ち着く等と感じてしまった。 「おいどこに行ってたんだ、探したぞ」  荷物片手にレティシアが声を掛けてきた。
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