第一章 自宅は海辺の丘に

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「オムツ交換に手間取ってね。手足が簡単に折れるんじゃないかと気が気じゃなかった」  情けない言い訳を聞いて彼女は笑顔を浮かべた。 「慣れるまでやればいいさ。機会は幾らでもあるからな」  荷物を持てと言われ娘と交換した。やはり母親が良いらしく、すっかりご機嫌になる。  ――慣れるものか? ま、やるだけやってみよう。 「じゃあ帰るとするか」 「車まで荷物を持ってきたらそれで良いぞ」 「と、言うと?」  その後に何か予定があったろうかと首を傾げる。そんな態度に対して、彼女は冷たくいい放った。 「家まで二時間もあれば着くだろ、走るんだよ」  ――いやはや手厳しい。だが愛情からの言葉だと受け取ろう。 「着替えを用意して待っていてくれ」  誰のためでもない自分のためだと、ダイエットを今から始めることに素直に同意した。明日に伸ばして成功した試しは少なかろう。 「二時間を越えたら追加で走らせる、遅れるんじゃないよ」  グロックばりの無茶を後からつけてくる、久し振りにしてやられた島であった。
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