第一章 自宅は海辺の丘に

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 軽いストレッチをしてから走り出す。息を切らしながらも二時間ぎりぎりで何とか到着した、これを速いとみるか遅いとみるか、本人次第であろう。  ご近所様に挨拶をしながら走り続ける姿を遠くから見ている者が居た。  戦場ならいざ知らず、日常ではそれに気付けと言う方が酷だろう。  身の回りに何かが迫ってきている、だが島の直感はそれを察知しない。  現場組としての折り返しがやってきた、そう判断するのに数日を要することになった。 ◇  自宅の地下には海に繋がる船着き場があった。岸壁の洞窟の上に家を建てたのが先ではあったらしいが。  少しばかり岩場をくり貫いて道をつけたのが、いまから五十年以上も前で存在すら忘れ去られていた。  老夫婦から話を聞いた島が手入れをして、現在はボートが係留されている。 「近々マルカに行くことになった。シャティガドゥド委員長に呼ばれてね」  自由区域の拡張計画があるらしく、その話し合いに参加して欲しいというのが目的だ。 「オリヴィエラに一報入れておこう。ジョビンを迎えに出すようにな」  ――マフィアの幹部が出迎えでは些かこまりものだな。だが好意は受け取っておくとするか。
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