第一章 自宅は海辺の丘に

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 レティシアは石の階段を一歩ずつ滑らないように降りて行くと、電動ボートに乗り込んだ。妙な何かが後方に鎮座している。 「さあ行くよ」  エンジン音が一切しないので、洞窟から出るまで誰もその存在に気付かなかった。マシンガン集団の一人がボートを見付け、イタリア語で「居たぞ、追うんだ!」叫ぶ。  ――マシンガンに地中海、イタリア語ときたらマフィアか。彼奴がシシリーのと込み合った話を昔に聞いたことがあったな。  電動ボートの足は速いとは言えない。エンジン音が徐々に迫ってくる。射程には中々収まらないのは解っていても時間の問題だ。  ――泳ぐより百倍マシだ!  何かのエンジンを点火する、白い排気を出し始めて軽やかに連続音をたてた。座席に座るとベルトを緩めに縛る。椅子に縦長の棒がついていて、その先にはプロペラがくっついていた。  追跡するボートが威嚇で射撃を繰り返した。彼等は信じられない何かを目撃する。 「な、なんだあれは!」  指さして空を見上げる、何かが舞い上がって行くのだ。
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