第五章 死の囁きは永遠に

5/29
前へ
/174ページ
次へ
 劣勢、予測より余りにも被害が大きく、相手に与えるそれが少ない。予定より幾ばくか早いが、切り札を一つぶつける。 「ジョビン、人質を押し出せ」  命令が下るとすぐに、平トラックの荷台に立てられた何かに注目が集まる。木の骨組みに人が縛り付けられているではないか。ゆっくりと三方の全面にトラックが複数台進み出る。 「あ、あれは母さん!」 「うちの妹も居るぞ!」 「じい様は病気なのになんてことを……」  軍基地の中から悲痛な叫び声が上がる。反撃が止む、人質に当たっては困るからだ。  反応を嘲笑うかのように、エスコーラが間から攻撃を繰り返す。悪魔の所業であるが彼等はそうは思っていない、敵対者は死と恐怖で屈伏させる、ただそれだけなのだ。  本部で観戦中のハラウィ少佐が表情を歪める。だが口には出さない、覚悟の上だからだ。 「軽蔑するかい」  肯定されたからと別にどうするわけでもない。無言が苦しいなら喋れば良いと誘っているだけで、ハラウィもそれを解っていた。 「これは戦争じゃありませんから」
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1657人が本棚に入れています
本棚に追加