第一章 自宅は海辺の丘に

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 大統領辞任の書類にサインをした時には、うっすらと笑っていたそうだ。  側近からサルミエ大尉が聞いたらしく、後に島の耳に入った。  ――オルテガ中将、軍部の独断で争いをしたと証言していた。大統領らはあくまで政治闘争のみしかしていない、と。白々しくともそれが歴史になったのだから、自己犠牲が多大だった。  今は収監中で裁判の結果を待っている。その意味では俺は中途半端な責任の取り方だった。 「おい買い物に出掛けるぞ」 「わかった、今いく」  ロサ=マリアを抱いたレティシアがテラス下から呼び掛けてくる。  庭付き一戸建に運転手付の黒塗りベンツ、同じ地区の住人が何者かと窺ってきたが、島が日本の慣わしだと引っ越しそばを提供するとあっさりと打ち解けてしまった。  単純に日本人の金持ち夫婦が越してきた、と。島の人となりが多大ではあるが、良き隣人が望ましいのはお互い様なのだ。  ――意外だったのはレティアが案外金銭感覚が庶民的な部分だ。派手な浪費にはお目に掛かったことがない。  ベンツにしても防弾仕様なだけで、財を誇っているわけではなかった。
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