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暑い…。まだ六月だってのに、なんだこの暑さは。
僕は、この湖畔でこの夏いっぱいのアルバイトに来た。大学で色々と面倒な人間関係ができてしまい、逃げて来たというわけだ。…それと、色々。
冷房のきかないバスに乗り、駅から2時間。やっとたどり着いたここは、目に優しいと言われている、緑の世界と湖面の青。
「ご旅行ですか?うらやましい。」
気さくな老婦人が話しかけて来た。
「いいえ、仕事に来ました。」
しかし、この姿はどこから見ても、貧乏学生の旅行者にしか見えないかもしれない。ジーンズは、膝がやぶけている。Tシャツは、所どころへなへなだ。背負ったディバックは、高校時代からの逸品…。
歩きだした僕の視界に、湖の全景が映った。
広い…
しばし、我を忘れて、その場に立ちつくした。
こんなに広い湖だったんだ…
暑さで少しふらふらになりかけたところ、地元の人が不審そうに眺めて行った。どこぞのアホな旅行者と思われたのだろうか?
湖の外周は、ぐるり360度山で囲まれていた。めだった観光施設も見えず、自然の景観が目に優しい。
こんな綺麗なところだったら、旅行できたかったな…
不意のこと、僕は目指す場所へと、 足を向けることができた。それは、次のバスがやってきて、中から観光客とおぼしき集団を吐き出したからだった。
ガヤガヤと煩いな、つるんで騒げばどこへ行っても一緒だろう、他へ行けよ!
目的地にたどり着いた僕は、その店の外観に思わず吹き出しそうになった。場にそぐわないとは、このことかもしれない…。
一見すると、ペンションと言われても、ハイそうですねと答えてしまいそうだった。
木造の真っ白な建物に、芝生の庭。建物の左手には、同じ様に真っ白の鉄筋コンクリートらしき四角い建物。右手には、馬の繋がっていない馬車らしき物が置かれている…。
…あの馬車、まさか乗ることにはならないよな…
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