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このまま、掴んだ手を離してしまったら帰ってしまうかもしれない。
迷惑をかけてはいけない。
泣いて甘えてしまいたい。
葛藤する気持ちが入り交じり、シキは動けなくなってしまった。
すると、ハンはそんな気持ちを察したのか、優しく抱きしめた。
「大丈夫だから。安心して。」
何をとは言われなかった。
ぽんぽんと背中を叩かれると、少しずつ冷静さを取り戻すシキ。
「ハンさん・・・。」
名前を呼ぶだけで、愛しさが募る。
ぎゅうと力をこめてだきかえすと、応えるように彼女も力をこめた。
これだけで、何も怖くなくなる気がした。
すうっと涙がひき、今度は急に恥ずかしくなる。
「は、ハンさん、私顔洗ってきます。体調はとてもよくなりました・・。」
泣き顔を見られたくはない。
下を向いてハンの体を押すと、今度は離してくれなくなってしまった。
「私から、離れるの?」
「・・・顔を・・洗うだけです。」
「離れるってことでしょ?」
「ーーー。」
離れたくない気持ちを刺激され、もうこのままひっついてしまおう。
シキは諦めてハンの胸に顔を埋めた。
柔らかくて、胸をどきどきさせる香りがする。
「私が、弱ってる時にも、胸をかしてね。」
「その時は必ず、よんでください。1人にはさせません。」
シキは嬉しかった。
自分に弱いところをみせてもいいと、言ってくれた彼女の言葉が。
好きです、あなたのことが
もう2度と口にはしないと決めたその言葉を、ハンの胸の中で伝わるように何度も何度も呟いた。
たとえ同情からでた言葉であっても、今のシキには十分だった。
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