st.1

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このまま、掴んだ手を離してしまったら帰ってしまうかもしれない。 迷惑をかけてはいけない。 泣いて甘えてしまいたい。 葛藤する気持ちが入り交じり、シキは動けなくなってしまった。 すると、ハンはそんな気持ちを察したのか、優しく抱きしめた。 「大丈夫だから。安心して。」 何をとは言われなかった。 ぽんぽんと背中を叩かれると、少しずつ冷静さを取り戻すシキ。 「ハンさん・・・。」 名前を呼ぶだけで、愛しさが募る。 ぎゅうと力をこめてだきかえすと、応えるように彼女も力をこめた。 これだけで、何も怖くなくなる気がした。 すうっと涙がひき、今度は急に恥ずかしくなる。 「は、ハンさん、私顔洗ってきます。体調はとてもよくなりました・・。」 泣き顔を見られたくはない。 下を向いてハンの体を押すと、今度は離してくれなくなってしまった。 「私から、離れるの?」 「・・・顔を・・洗うだけです。」 「離れるってことでしょ?」 「ーーー。」 離れたくない気持ちを刺激され、もうこのままひっついてしまおう。 シキは諦めてハンの胸に顔を埋めた。 柔らかくて、胸をどきどきさせる香りがする。 「私が、弱ってる時にも、胸をかしてね。」 「その時は必ず、よんでください。1人にはさせません。」 シキは嬉しかった。 自分に弱いところをみせてもいいと、言ってくれた彼女の言葉が。 好きです、あなたのことが もう2度と口にはしないと決めたその言葉を、ハンの胸の中で伝わるように何度も何度も呟いた。 たとえ同情からでた言葉であっても、今のシキには十分だった。
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