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「ハンのチョコレートだけ、食べるよ。私は、甘い物が得意じゃないしね。1個が1番美味しく食べられるよ。」
亡き旦那の生前の言葉だった。
会社からのチョコレートは受け取りつつも、口にするのは妻のチョコレートのみ。
手作りの生チョコを珈琲と一緒にいつも美味しそうに食べてくれた。
「義姉さん?義姉さん!」
ぼんやりと考え事をしていれば、ヨンに意識を引き戻された。
突然生チョコの作り方を教えてと訪ねてきたのだ。
もちろん、あげる相手は分かっている。
「シキさんは、甘い物すきなの?」
「そうみたい。いつも何かしら、お菓子がカバンに入ってるし。」
それにしても大量にチョコを買い込んできたヨン。
500gはあるだろうか。
「失敗してもこれで大丈夫でしょ?」
これまで料理をする必要性も感じた事がなかったヨンに、そこまで尽くさせるシキとは例え女性同士であっても、幸せになって欲しかった。
しかし、シキの思いが自分に向いていること。諦めてヨンを好きになってと言えない自分。そしてチョコを受け取るシキに嫉妬さえ感じる。
「義姉さんは、あげないの?年に1度のバレンタインよ?」
「私はトキさん分を作るわ。」
「兄さん、好きだったもんね。」
湯煎でゆっくりチョコレートを溶かしながら、遠い目になった。
「でも、シキさんにはいいの?」
「ヨンがあげるんでしょ?私はいいわ。」
「絶対欲しがると思うけど。」
「応援するの?」
からかうように言えば、ヨンは真剣な顔で手元をみつめた。
「どうであれ、好きな人には笑顔でいて欲しいから。」
「ヨン・・・。」
「チョコ、とけたわ?次はどうするの?」
「ああ・・次はね・・・。」
それ以上はシキの話題はなかった。
綺麗にラッピングをし、意気揚々と帰るヨン。
あのチョコをどんな思いでシキは受け取るのだろう。
グラスに飾った丸い生チョコを見つめながら、ハンはため息をもらした。
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