第1章

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あたしは、思い切って、奥様には正直になろうと思った。 「……初めて、会ったんじゃないんです」 「え?」 父さんにしか言ってないことだった。でも、こんなに気遣って心配してくれている奥様を安心させたい。 「偶然、通学電車が一緒で……あたし、電車でずっと見ていたんです、智樹さんのことを。話をしたのは1回だけだったけど、あたし、ずっと智樹さんのこと、……好きでした」 思い切って言ってしまって、やっぱり恥ずかしくなった。父さんにだって、電車に気になる人がいる、程度にしか言ってなかったのに。 あたしは恐らく真っ赤になっているだろう顔を隠すように、もじもじと下を向いた。 智樹さんのこと、そう、ずっと、好きだった。 「まあ!」 奥様は、両手を口にあてて目を見開いた。 「恥ずかしいので、智樹さんには内緒ですよ」 と、あたしは慌てて口止めをした。 奥様はあたしを見つめたまま、何度もうなずいた。その目はなんだか潤んでいるようにも見える。 「そう……だから、井上は……」 そうつぶやいて、泣き笑いのような顔をした。 「そう、そうなの……。良かった。本当に良かった。あなたたちはとってもお似合いの夫婦よ。私、心から祝福するわ。たとえどんな障害があったとしても、必ず……必ず、乗り越えていける。二人なら、できるはずよ」 奥様は感激した様子であたしの手を取り、両手で包んでくれた。 こんなに、喜んでくれるなんて、あたしもうれしかったけど、あたしが良くても智樹さんのほうが心配。あんなに素敵な人なのだから。本当にあたしでいいのだろうか。 そして、ふと奥様の言葉にひっかかった。障害……?何か、あるのだろうか? 「さあ、それなら、ちょっと地味だけど新婚旅行だもの。はりきって準備しましょ」 「新婚旅行!」 あたしは、またその重要問題が浮上して、顔を赤らめた。結婚して最初の旅行イコール新婚旅行……。つまり、二人で……。 どうしよう……うれしいけど、どうしよう…… あたしの頭はパニックに陥っていた。
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