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家に到着して車を降りると、今朝まで静かだった本宅がバタバタという人の足音で騒がしい。
森野さんも車を降りてきて言った。
「どうやら、なにかあったようですね」
「なにか?」
「とにかく、中に入りましょう」
森野さんと一緒に本宅の大きな玄関を開けて中に入ると、ちょうど智樹さんが廊下を歩いてやってきた。
「やあ、おかえり。どうだった?初日は」
智樹さんはいつもと変わらず、やわらかな笑顔で言った。
学校でさんざん噂話をしていた当の本人に会うのはなんだか、照れる。
「ただいま。すごく楽しかった。とてもいい学校だったよ。それに伝説のフォワードの話をさんざん聞いてきました」
あたしが、少しふざけて言うと、智樹さんははにかんだ笑顔で頭に手をやった。
「まあ、昔の話だよ。でも学校を気に入ってくれて良かった」
二人でなんだか、照れていると、横にいる森野さんがうぉほんと小さく咳払いした。
「お二人だけにしてさしあげたいのはやまやまですが、何かあったようですし、この場を離れるわけにはまいりません。智樹さま。お話中、申し訳ありませんが、状況を教えていただけると助かるのですが」
森野さんがすまなそうに言った。
「ああ、ごめん、そうだね」
智樹さんは気をとりなおして、森野さんに向いた。
「『気』の乱れが出たんだよ。広島だ。明日、俺が行くことになりそうだ」
智樹さんは、真面目な顔になって言った。
「おや、それはひさしぶりでございますね。……何か問題はございますか?」
二人はなぜか、あたしに少し背を向けて、声をひそめた。
「いや、プラス数値で55だ。特に問題はないよ」
それから、智樹さんはほがらかな笑顔で振り返った。
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