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「そうだ、菜月は『秘密基地』を見たんだよね」
智樹さんはいたずらっぽく言う。航くんの秘密基地のことだとすぐわかった。
「うん、『気』が発生したら、すぐ、わかるっていう……」
「そう、あれに反応があってね。俺が明日対応に行くことになりそうなんだ。明日のジョギングは自主練ってことでよろしく。斉藤に警護を頼んどくから。ちゃんとやるんだよ」
「はあい」
あたしは少し気の抜けた返事をした。きついジョギングも二人だから楽しいのであって、一人で走るのは拷問以外の何物でもない。
ところが、その日の夕食後、意外な展開となった。
「菜月さんも一緒に行きなさい」
「え?」
家元がにこにこしながら、そう言ったのだ。
「明日はちょうど土曜で学校は休みだろう?広島支所への顔見せもかねて、観光がてら智樹と楽しんでくるといい」
「まあ!それはいい考えね。あとで準備を手伝ってあげるわ」
奥様も乗り気だ。
「でも……、お仕事の邪魔になるんじゃないですか?」
あたしが控えめに言って智樹さんを見ると、なぜか智樹さんは焦ったような顔であたしから目を逸らし、顔をほんのり赤くして言った。
「それはないんだけど……。でも、危険じゃないかな」
そういえば、まだあのときの危機が去ったというわけではないのだ。
「お前がついていれば大丈夫だろう。それに広島支所は、大山の管轄だから心強いしな」
家元はすっかりその気だ。
智樹さんは色づいた頬のまま少し考えている。お酒でも飲んでいたっけ?
そして、ようやく口を開いた。
「そうだね……。菜月さえよければ、一緒に行こう」
一緒に行こう……なんて心地よい響き。智樹さんと遠出ができるなんて、率直に言ってうれしい。あたしは、なんだか舞い上がってしまったけど、興奮を抑えて、照れながら下を向き「うん」と小さくうなずいた。
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