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「僕も行く」
そこへ、デザートのメロンを無心に食べていた航くんが、フォークを上に掲げて言った。
「航、明日はパパと遊園地に行く約束じゃないか。だろう?」
「あ、そうだね、遊園地。パパとお約束したの」
家元が遊園地……。なんだか、イメージがわかないけど、きっと航くんがごねないように、根回しをしていたに違いない。家元はなかなかやるなあ、と感心した。
食後、奥様が部屋に来てくれた。遠出とはいえすぐ帰ってくるのだから、準備も何もないかなあと思っていると、奥様が意外な事を言った。
「一泊とは言っても、女の子はいろいろ準備が必要だものね」
「え?一泊!?」
あたしは驚いて飛び上がりそうになった。
「と、泊まり、なんですか?」
「そうよ。飛行機ですぐだけど、いくらなんでも日帰りはきつすぎるでしょ。あら、言ってなかったかしら?」
あたしはぶんぶんと首を横に振った。
泊まり……智樹さんと、二人で、泊まりの旅行……。
あたしは急に顔が真っ赤になるのを感じた。ど、どうしよう。
そんなあたしを見て、何を勘違いしたのか、奥様が真剣な顔であたしに向き合った。
「菜月さん。もし、ね、もし、この結婚が嫌だったら、正直に言ってね。結婚を解消してもあなたを追い出すようなことはしないわ。今までどおりこの家にいていいのよ」
「嫌だなんて、そんな……。智樹さんはあたしにはもったいなさすぎる人です」
あたしは驚いて必死に首を振った。嫌なわけがない。
「本当?無理はしないでね。あなたは納得ずくでこの家に嫁いできたわけじゃないでしょ。いわば、だましうちみたいなものだったから。この家は特殊だし、初めて会った智樹といきなり結婚なんて、本当は無理してるんじゃないかなって思って」
奥様は優しい眼差しであたしを見ていた。
あたしみたいな幼くて未熟な嫁を、こんなにやさしく見てくれるお姑さんっているのだろうか。
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