1.日常

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ここのところ残業続きの毎日で、定時に帰れる事に何処か新鮮さを感じていた。 ホームで電車を待っていると、不意に若い女のはしゃぎ声が耳をつんざいた。 振り返って見ると、三人組の女子高生だ。 ひとりが持つ雑誌を前に、皆が釘付けとなっている。 「アハハハハっ、マジ~!? でも分かるっ! こういうの下らないとか思いつつ、あたしもHinokiになら抱かれたいもーん!」 「お金払ってでも…??」 「もち~」 かしましい声で、不埒(ふらち)な発言を堂々と言ってのける。 若いが故に出来る行動だ、と男は僅かに苦笑した。 「1位がHinokiで~、2位が(とおる)でしょー? あたし透も好きだなぁ~」 「まぁ、確かに。透もイケメンだもんねぇ」 彼女達は雑誌で特集された‘いま抱かれたい男’、そのランキングについて熱く語り合っていた。 (…Hinokiって事は…‘FAVORITE’か) 近年、爆発的に売れているロックバンドで、そのボーカリストの一人だ。 どこか日本人離れした容姿と独特な声で、女性ファンを魅了している。 「…やだ、見て。あのオッサン、今あたし達の事見てにやついてたよー?」 「うそ、キモ~い。援助とかそういうの考えてんじゃないの~??」 彼女たちは男を指差し、クスクス笑う。 自分の事を言われていると察し、男は幾らか眉をひそめた。
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