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ここのところ残業続きの毎日で、定時に帰れる事に何処か新鮮さを感じていた。
ホームで電車を待っていると、不意に若い女のはしゃぎ声が耳をつんざいた。
振り返って見ると、三人組の女子高生だ。
ひとりが持つ雑誌を前に、皆が釘付けとなっている。
「アハハハハっ、マジ~!?
でも分かるっ! こういうの下らないとか思いつつ、あたしもHinokiになら抱かれたいもーん!」
「お金払ってでも…??」
「もち~」
かしましい声で、不埒な発言を堂々と言ってのける。
若いが故に出来る行動だ、と男は僅かに苦笑した。
「1位がHinokiで~、2位が透でしょー? あたし透も好きだなぁ~」
「まぁ、確かに。透もイケメンだもんねぇ」
彼女達は雑誌で特集された‘いま抱かれたい男’、そのランキングについて熱く語り合っていた。
(…Hinokiって事は…‘FAVORITE’か)
近年、爆発的に売れているロックバンドで、そのボーカリストの一人だ。
どこか日本人離れした容姿と独特な声で、女性ファンを魅了している。
「…やだ、見て。あのオッサン、今あたし達の事見てにやついてたよー?」
「うそ、キモ~い。援助とかそういうの考えてんじゃないの~??」
彼女たちは男を指差し、クスクス笑う。
自分の事を言われていると察し、男は幾らか眉をひそめた。
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