607人が本棚に入れています
本棚に追加
安心しろ、と内心で呟き、前を向く。
(俺にも、待っててくれる人はいるんだ…)
掲示板の予定通り、轟音を響かせ、電車はホームに乗り入れた。
*
「お帰り」
4階に上がり、マンションの扉を開けると、彼女はエプロン姿で出迎えてくれた。
肩口より少し長めの焦げ茶色の髪をまとめ、穏やかな笑みを浮かべている。
ただいま、と答え、男はコートとスーツの上着を彼女に手渡す。
「あ~…。腹へった…、今日晩飯なに?」
「うん…? ビーフシチューとチーズきのこオムレツ。あとカボチャのサラダ」
彼の上着をハンガーに掛けながら答えると、男は頬を緩め、どれも俺の好物だ、と喉を鳴らした。
「今日ね。あたしも仕事上がるの早くて…。
帰ってすぐ作ったから、ご飯冷えちゃったの。今温め直すね?」
「うん…。
あ、サチは明日も弁当屋?」
キッチンへ向かい、鍋に再び火を入れると、男の恋人である、桜庭幸子は、そうよー? と間延びした返事を返す。
明日も朝から仕込み、と眉を下げ、器を用意する。
「ふうん…そうなんだ」
相槌を打ち、男は、
…もとい、葛西慎一は居間にあるこたつテーブルの椅子へ腰掛けた。
足を突っ込み、あれ? と首を捻る。
最初のコメントを投稿しよう!