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金曜の夜に放送される、生放送の音楽番組を見つめ、幸子はため息をついた。
「またMパラ? たまには違うの見ようよ?」
「違うのって…。今日大したバラエティーやってないし、コレでいいじゃん?」
葛西はシチューを口へ運び「お、うまい!」と微笑んだ。
幸子は眉を下げ、仕方無くテレビに目を向ける。
華やかな脚光を浴び、拍手に出迎えられながら白い階段を下りる四人組。
スタジオの大型ビジョンには、そのグループ名が大きく浮かび上がっている。
最早、こうしたメディアを通して見るのが、日常になりつつある、その彼を見て。
幸子は真顔で目を細めた。
今日もその手首に、クロノグラフの時計がある事をつい確認してしまう。
「あ、そう言えばさ」
箸を進める葛西は再び口を開く。
「さっき帰って来る時、駅でコイツの話聞いた。
‘FAVORITE’の…Hinoki、だっけ?」
「え…?」
幸子はテレビからパッと目を外し、葛西を見た。
「雑誌の特集で‘抱かれたい男’ナンバーワン、なんだって」
「抱かれたい男…?」
「そっ。で、2位は坂城透」
「へぇ…。まぁ坂城透ならあたしも好きだけど…」
「え…。そうなんだ?」
「うん。ドラマとかよく出てて、演技もうまいから」
そう言って幸子は苦笑した。
「…でも。そういうランキングって、正直下らないよね…?」
「だよな~。話してたのが女子高生なんだけどさ? 何の恥じらいも無く、私も抱かれたい~、とかって大騒ぎしてて。
こりゃ日本の行く末が心配になるなって思ったよ」
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