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今日も母は居ない
僕が2歳になる前に父と母は離婚しており
母が一人で生計を立てている
その為、毎日のように親戚の家に預けられているのだが
学校へ行くのも、帰ってくるのも、その家からなので
自分の家にいる事は殆どなかったと思う。
なぜか今日は、母に会えるような気がして
家に帰ってきてみたんだ
裏の扉の鍵はいつも開いていて
所謂僕は鍵っ子ではなかったが
帰宅して誰もいないのは大した変わりはないと思っていた。
家の中に入ると、薄暗さから誰いないことは感じ取れ
気味悪さと、喪失感だけがいつものように襲ってきたのを覚えている。
それでも、家に帰りたかったんだ
昨夜の晩御飯の時
親戚は子供が3人いて、それだけでも大変なのに
そこへ僕がいた訳だが
従兄弟の三男が「おかわり!」と言った時だった
笑顔の叔母さんが
言葉では「今日は、もう無いのよごめんなさいね」
心では『あなたさえいなければね』と
僕の目を見て伝えられたのを覚えている。
人は表情と言葉で相手に感情を伝える生き物だが
僕は、6歳になった頃から人の心を読んでしまうようになり
相手が、何を思い何を考えているのか
分かってしまう様になってしまっていた
それでも僕は、感情を顔に出すことはしなかった
何故なら感情は凶器と言えるからだ
『お前は、ここに居ちゃいけない
お前の親は、人に迷惑をかけている
早くいなくなって欲しい』
その表情と、言葉とは違う思いが入ってくる
その夜僕は、黙って家に帰った
親戚の家と僕の家は、子供の足で歩いても
20分位だったし、大通りを行けば怖くはなかった
家の近くまで来ると電気が点いていて
母がいる!
と、とても 嬉しかった
いつものように裏の扉から中へ入ると
母の笑い声がして、喜び勇んで部屋のドアを開けた
そこには、知らない男の人と楽しそうに食事をしている母がいた。
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