湖畔に今日も日が昇る

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…またこの貸別荘か、いわく付きだからな… 午後の急な注文を受けて、僕はまた、この貸別荘地帯に車を乗り入れた。注文者は、貸別荘を借りているお客さんだと言う。 別荘地は、広めの道路に沿って、かなり広範囲に広がっている。森林の中、舗装された道路が引かれ、ぽつんぽつんと建っていた。目的地へつくまでの間に、3件の建物を見たが、いずれもログハウス風で、駐車場にはレンタカーのワゴン車が止まっていた。 …家族連れか、あるいは何かの団体さんだな… 目的の別荘につくと、一瞬寒気がした…。 そこに止めてある車は、明らかに他の別荘のものとは違い、けれどしかし、どこにでもあるような国産の乗用車なのだが…かなりの高級車…。 …なんだろう、なんだか嫌な予感がする… …とにかく…荷物をおいて料金を受け取り、さっさと帰るのが得策だな… 僕は貸別荘の呼び鈴を押した。 中から、女性の声が帰って来る。 「はーい、今参ります。」 出てきたのは、パーティにでも行くかのようなドレスを着た、40歳ぐらいの女性だった。 「どうもありがとう。今、お金持ってくるから待っててくださいな。」 「はい…。」 女性は、荷物を抱えて奥の方へ引っ込んで行った。 …なんだか、いっそう不安になってきたぞ… 「おい、なんだお前は。」 後ろから声をかけられ、振り返ると黒服の大男が立っていた。ふいに殴られる、みぞおち…。続けざまに、右の頬…。 「ちょ、まっ…まって…」 僕の声が届かないのか、後ろ襟を捕まれて引き上げられ、膝が腹に飛んできた。 「おまちなさい!」 さっきの女性の声が、けたたましく鳴り響く。 「この馬鹿!その子は配達に来たお兄さんだよ。勝手なことをするんじゃないわよ。」 「すいません。」 やっとのことで理解した。 どこかのVIPか、やくざだ…。
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