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勝手にイチコさんの車を借りたのは良いが、まだあの大男への仕返しの方法を 思いつかずにいる。
…力じゃかなわないだろうな…
車は湖畔を抜け、あの貸別荘地帯へとやってきた。
ところどころの別荘から、もれる光。
そして たどりついた例の別荘。
…何にも思いつかない…いっちょ正攻法で行ってみるか…
車から降り、建物へ近付く。
と、建物の裏手から、なにかにぶい音が聞こえて来た。
気になり、玄関口の横から、裏手の庭へと忍び込む。
見るとそこでは、地面にあおむけになってのびているダイゴさんと、あの黒服の男と差向いで勝負しているケンイチさんの姿があった。
「ケンイチさん!」
思わず飛び出す僕。
「おう、ジャンも来たのか。」
両手をつかみ合い、肩に血管が浮くほどの力をいれながら、ケンイチさんは振り返りもせず僕に言う。
「今二番手が俺だから、お前は三番手な!」
建物の窓辺で、ドレスの女性がワイングラスを片手に、その様子を眺めている。
「と、止めて下さい。ケンイチさん達は関係ないんですから。」
僕の言葉に、女性はきっぱりとした口調で言った。
「止められないわよ、女の私には…。」
ダイゴさんに駆け寄ると、ダイゴさんは意識はしっかりしていた。
「よう、ジャン君。遅かったねぇ。」
「何してるんですか?!こんなとこで!!」
「あー、フィットネスじゃないことは確かだな…。」
あおむけのまま、ダイゴさんは深く息を吸い込み、続けて言った。
「こんな田舎だとさ、こういうイベントは大歓迎なんだよね。」
昼間の板長と社長の会話が思い出される。
…公務執行妨害もうなずけるわ…
ケンイチさんと黒服の闘いは、その後延々と続いた。ほとんど互角の勝負だった。
終わったのは、夜中の3時を過ぎていた。
結果は、引き分け。
ダブルノックダウン。
…むちゃくちゃだな…このひとたち…
なんだか、たまらなく熱いものがこみ上げて来る。
二人に、何とも言えない、感謝の気持ち…
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