駆け上がる坂道はどこまでもつづいているように思えた日

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「ふへー、やっとついた…あちーぃ」 石の階段を登り切ると、そこは開かれた境内の神社。 真上から照りつける太陽の光が、眩しいほどに反射される、白く広い境内の土。 「あの大きい建物かな?」 独り言をつぶやきながら、肩の荷物をよいしょっと担ぎ直し、建物へと向かう。 神社のことなんて何も知らない私は、何がなんだか良くわからない。 「そもそも、ここの神社って人が住んでるの?」 実家の神奈川にある神社は、神主さんは別に本宅を持っていて、神社には住んでいなかった。 そもそも、神社とは神さまが住まう所…。 「…無駄足かな…」 一番大きな建物の日陰に入り、荷物を降ろして一息つく。 見回す風景は、わりと整然とした感じ。 登って来た階段のところに、大きな鳥居。 鳥居越しに、遠くの山々と空を舞う鳶が目に入り、カメラのレンズカバーを外した。 カシャ! 「ご参拝ですか?」 「わ!びっくりした!!」 ふいに背後から声をかけられた。 振り向くと、そこには白い着物の男性が立って微笑んでいる。 年のころは…三十代? 微笑む顔は、知性的な感じ。 少し好みかも… 「は、はい。あ、いえ…あの、取材に参りました…。」 慌ててポケットをまさぐり、ほんの半年前に自分で作成した名刺を差し出す。 「…ルポライターの方ですか、こんな何もないところに何でまた…」 「あ、え、えと、実はあの、十数年前に起きた集団神隠しの事件について、お伺いに…」 男の顔から、一瞬 笑顔が消えた。 「そうですか…。ここでは何ですから、私の部屋でご事情をお伺いしましょう。」 再び微笑む男。 心なしか、少し哀しそうな微笑み。 男の案内について、奥にある少し小さめな建物に、私はついて行った。 建物の裏手には、結構な畑が広がっている。 「良く手入れされた畑ですね。」 「はは、素人いじりですよ。まだまだ足元にも及びません。」 「は?どなたの?」 「いえ、なんでもありません。さ、こちらです。」 その建物の中は、ひんやりとして涼しく、快適な空間だった。 藁葺屋根の、土間のある家。 「冷たいお茶をご用意しますので、どうぞ上がってくつろいでいて下さい。」 そう言うと男は、土間の奥に消えて行った。 私は、言われたままに靴をぬいで、畳の上に上がりこんで足を伸ばした。
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