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「…やっぱまだ、早かったんじゃないか…。」
「…だから、そう言ったろう…。」
「…まあまあ、二人ともそんなに険悪にならないでだな、こういうときは…。」
やっと今日から夏休み。
中学時代から親しい友達の、公一と義男と俺。サングラスにジーンズ、Tシャツ姿で、三人浜辺に座り込んでいる。公一がどうしてもと言うから来てみたのだが、俺の思ったとおり、綺麗なお姉さんはどこにも見当たらない。
毎年八月に入らないと来ないんだよ…。
義男に諌められなければ言ってただろう言葉を飲み込んだ。
「あそこにいるカップルに、お小遣いでももらおうか。」
「またかよ。」
「公一、いい加減にしないとまた親父さんにぶん殴られるぞ。」
公一の家は、親父さんと公一の二人暮らし。母親は、公一の話では小学校の頃、買いものにいくと言ったまま姿を消したらしい。親父さんは、あの岩下の親父がやっている工務店に長く勤めている。かなり頑固でおっかない。
「まあまあ、いつもの事だろ。二人とも、俺の後ろにいるだけでいいから。」
立上り、ジーンズに付いた砂を払い落として、公一はさっさと海辺のカップルへ向かい歩きだす。義男もうきうき顔で、同じように後を付いていく。
義男の家は、公一とは逆で母親と兄弟の家庭だ。兄弟は四人。兄二人が義男の親父さんと同じく、岩下の親父がやっている工務店に勤めている。幼い妹のことを大事にする、ちょっとだけ頭の悪い優しい男。
「おい、まてよ、置いてくなよ。」
俺も、ジーンズの砂をふり落して、後を追った。
中学の頃から、三人でつるんでこんなことばかりしていた。カツアゲ・万引き・ナンパ…。バイクを盗んで、三人乗りで砂浜を走り回ったこともある。あのバイクはそのまま、海に乗り捨てた。今頃どうしているだろう、あの崖から落したバイク…。
「お兄さん、どうですかここの海は?」
やっとのことで二人に追い付くと、公一が早速はじめていた。
「お姉さん綺麗ですね…僕たち貧乏なんですよ。」
それとわかるようにすごむ公一。俺と義男は、サングラスをかけたまま黙って周囲を見回している。
「おー!お兄さん、日本語わかりますか?」
公一は親父さんゆずりの体格で非常にガタイがいい。俺も義男も、身長だけなら公一に負けない。三人とも中学時代は、バスケットでいいとこまでいった経験がある。
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