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「矢島の事が好きになったのかって聞いてる……」
「……何を言ってるの?」
信じられない、という困惑の表情を見せる彼女。
「……」
答えない俺に冷めた視線を送る。先程、垣間見せてくれた柔らかい笑みや、少しだけ緩めた口元は、今はギュッと固く結ばれてしまっている。バクバクと胸を打ち鳴らす大きな鼓動。正面に座る君に、聞こえてしまいそうだ……が、俺の心配は全くの無用で……完全にあきれ果てたのか、柏木さんは大きく息を吐くと、窓の外へと視線を向けた。
どうやら、俺の質問には答える気はないらしい……が、これで終わらせてたまるもんか……
「ねぇ、……矢島と……付き合うつもり?」
ピタッと身体の動きを止めた。ゆっくりと俺へと戻された視線。
「それは……付き合うことをやめろって意味ですか?」
真っ直ぐすぎる彼女の問いに、俺は、答えを見つけられない。
はっ、嘲るような失笑。
「菅沼さんはズルイです……大事なところで、ダンマリ……」
「……」
「同じ会社の人だから? 社内恋愛だから、やめろって意味ですか?」
「……」
長い沈黙。
「……やっぱり……何も答えてくれない」
「……」
何を言っていいのか、わからなかった
「菅沼さん……私を突き放したのなら……、もう、私に構わないでください」
「……」
「私が誰と付きあおうと」
「……」
「私が誰を好きになろうと」
「……」
「もう、あなたには関係ないっ」
「……」
「帰ります」
立ち上がった彼女。
「あっ、送る」
慌てて、俺も続こうとして、キッと睨まれた。
「けっこうです、迎えに来てくれる人がいるので」
「えっ?……誰?」
考えるよりも先に、零れ落ちた俺の言葉。
「そんなこと聞いて……どうするんですか?」
「……」
「菅沼さんは私とどうしたいんですか?」
彼女の声は泣きそうに変わる。
「……」
「どうにもなれないなら……もう私の事は放っておいてください」
「……」
「もう……誘わないでっ」
「……」
「お疲れ様です、菅沼先輩、お先に失礼します」
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