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私は顔を引き攣らせ振り返る。
その視界に映り込んだのは、固い表情をしてこちらに走り寄る先生の姿。
丁度その時、深津さんの存在を認識したからなのか、彼は急に足の運びを緩めた。
まさか、先生が私を追いかけて来るなんて…
いっその事、裏切られ捨てられた腹癒せに、深津さんと一緒にいることを、同じマンションに住むことまでも打ち明けてやろうかと思った。
「嘘つきなあんたなんてこっちから願い下げよ」って、「私だけを一番に想ってくれる人と幸せになります」って強がって。見せしめに、深津さんと腕でも組んで余裕ぶっかまして見返してやりたいとも思ったのに……
悲観の中で思い描いた状況がいざ現実となって目の前に迫ると、彼への未練が膨らんで尻込みしてしまう。
「……」
言葉も出せず、怯えた目をして先生を見つめる私。
その彼は私では無く、隣にいる深津さんを凝視しているのが見て取れる。
私たちの関係を探る様な鋭い眼差し。
先生……
まるで自分の方が悪い事をしている様な気持ちになって、罪悪感に似た感情が押し寄せてくる。
胸を突き破って来るのではないかと思うほどに、心臓が激しく鼓動を打つ。
ドク…ドク…ドク…
ゆっくりと近づいて来る彼の足音が緊張感に拍車をかけ、喉に貼りつく唾液をゴクンと飲み込んだ。
「こんばんは。はじめまして」
1メートル程手前で足を止めた彼を見つめ、深津さんから声を掛けた。
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