第1章

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「…斎藤…俺お前のこと傷つけたくないよ。だからなんでか教えてくれよ。」 「近付かなければいいの。それだけ…。」 「それじゃ、俺が辛いんだよ!」 斎藤の表情が、少し変った。 じっと俺の目を見つめる…。 「なんで、高槻が辛くなるのよ…」 「なんでかなんてわかんないよ!ここんとこずっと一緒だったから、いなくなると辛いんだよ。」 「…それだけ?」 「それだけって…それ以外にも…」 何だかわからない感情があふれ出して来た。 目の前の斎藤を、ぎゅっと抱きしめたくなる…。 「俺…たぶん、今でも手紙に書いたときのままなんだと思う…」 「嘘!高槻にとってはもう過ぎた日のことなんじゃない!」 「なんでお前にそんなことがわかるんだよ!?」 「だって、全部過去形で話してたじゃない!」 なんだか、それで全部が氷解した。そうか、そういうことだったんだ…。 「斎藤…ごめん、俺そういう意味で言ったつもりじゃないんだ。」 「何を話しても、だった、だったって、そういう言い方だったじゃない!」 「斎藤、だから…」 説得しようと、一歩踏み出す。 「近付かないでよ!」 斎藤の気持ちがわかり、決心した俺は、構わず斎藤に近付き、犬ごと抱きしめた。斎藤は俺をふりほどこうと抵抗したが、やがて静かになっていった。 「斎藤…俺、今でもお前が好きだ。」 「嘘…」 「じゃない。」 周囲の目も気にならず、斎藤を抱きしめる俺。犬と一緒に、静かに体重をまかせる斎藤。 まばらな海水浴客達の中、俺達二人は一塊でしばらくそうしていた。斎藤の髮は、とてもいい香がして、俺はいつまでもこうしていたいと思いつづけた。 どこか遠くで、カモメの鳴き声が聞こえた。
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