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俺と斎藤は、海岸線を南に歩きながら、岩場の影にたどりついた。目の前には、青い海と白い雲。耳をすませば、岩場の向うから観光客のはしゃぐ声が聞こえる。
空を舞う、一羽の変り者…。
「…」
「…」
俺達は二人して、暫くの間無言でよりそい座っていた。波の音が、ザザーと何度もくり返す。
俺の頭の中には、昔の思い出がいくつもいくつもよぎっていく。
中学時代…。
そのほんの一年間。
入学してはじめて、同じクラスメイトになった。
最初の班きめで、偶然同じ班になった。
となりの席に座ることは無かったが、いつもすぐそばに座っていた。
何かあると、言い合いになった。
なにかと、つっかかってきた。
時々、優しかった。
笑った顔が、可愛かった。
少しハスキーボイス。
そっととなりに目をやると、あの頃のままの斎藤が海を見つめて座っている。
腕の中の犬も、一緒に海を見ている。
俺の口元に、微笑があふれ出すのを感じた。
「あっ!」
斎藤が小さく声を上げる。
目線を追いかけると、あのカモメが綺麗な稜線を描いて、空を舞っている。
「今の見た?」
斎藤が話しかけて来る。
「いや、何があったんだ?」
「あのカモメ、いますごい宙返りをやったの。」
「…ああ、ついにやったのか…」
この間までは、何度も何度も海に落ちていたあいつも、ついに念願かなったんだな…。
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