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そうして二人は、カモメの曲芸飛行を眺め続けていた。
「…ばか月、そこだっつうの…」
「あうぅ、どうなるのかな…」
どこからともなく、聞こえて来る荒い息使い…。
「…肩だよ!肩に手を回すんだよ!…」
「そうそう、そしてぐっと引き寄せるんだな…」
すっかり忘れていた…こいつらも来てたんだ…。
となりに座っている斎藤は、気づいていない様子だった。
「斎藤、ちょっとごめんな…。」
俺は斎藤の肩に手を回して、ぐっと引き寄せた。
驚いた目の斎藤、でも嫌がっている様子は無い。
「…おし、いけ!ばか月!!」
「あうぅ…」
俺は斎藤の耳許で、そっと耳打ちした。
「ほんと、ごめんな。あの馬鹿達が覗いてるんだ、またちゃんと話そうな。」
そう言って、斎藤の肩から手を離すと、きょとんとする斎藤をそこにおいたまま、岩場を翔け上がる。
岩の上に這いつくばっている馬鹿二匹を発見した。
「…よ、よう。ひさしぶりだね、高槻君…」
動揺する公一。
「あうぅ」
おろおろする義男。
「…お前らさ、気を使うって単語知らないだろう…」
呆れて仁王立ちになる俺。
「どうしたの?高槻…あ!」
斎藤も岩場を登って来て、二人を見つけ驚いた様子だった。
「覗いてたの?二人とも…」
笑いながら、そう言う斎藤。
恥ずかしそうに頭をかく、公一と義男。
空の光は強さを増し、誰か観光客の持ってきているラジオから、ビーチボーイズが流れて来る。
夏が始まる、そんな予感がした。
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