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そんなある日、公一が久しぶりに電話をかけて来た。急いだ口調で、町の北東にある寂れた神社へすぐ来いと言う。あの二人組がそこで何かを始めたと言うのだ。
斎藤との待ち合わせ前にかかって来た電話だったので、俺はどうしようか一瞬迷った。今日は一緒に映画に行く約束をしていたからだ。けれど、俺は、反射的に斎藤への電話をかけ、急用だと告げて神社へと向かった。
後で後悔しようとも、思い立ったことをしなければ気がすまない。それが俺の悪い癖なのかも知れない…。
神社へつくと、公一と義男が木陰から二人の様子を伺っていた。
「よう、来たな高槻。」
公一がうきうきとした声で言う。
「さっきからずっとああしているんだ…なんだろうな?」
見ると、境内の中央で傷の男が宙空をなでまわしている。ちょうど、パントマイムの「壁」みたいな仕種だ。
「あそこに何かあるのかなぁ」
義男が言うように、そんな風にも見える。けれど傷の男のなでまわす手の先には、何も見えない。
「シンも黙ってつっ立っているだけなんだよな…なにしてんだろう。」
公一がそう言った瞬間、傷の男の手が、今までと違う動きを始めた。なにか…横に押し広げるように、空間を左右に引っ張っている。
「何だ?芝居の練習か?…大道芸でもやる気かな?」
けれど、俺にはそこに不思議なものが見て取れた…。空間が、開かれて行く。傷の男が押し広げるたびに、少しづつ、ゆっくりと…。
「なんか、あきちゃった。俺もう帰るわ。」
公一がそう言い、義男と二人で立ち去ろうとしたとき、俺の目はありえないものを捉えた。傷の男の手が、開いた空間の中に入って行く…。
「こ、公一、義男!!」
二人を呼び止める俺。何だか見てはいけないものを見てしまった気分…。
「なんだよ、高槻。あんなパントマイム見てたってつまんねえだろう。」
振り返り俺の横に来た公一には、見えていないようだった。
傷の男…その手は既に肘まで空間の中に吸い込まれている。
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