第1章

7/32

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
「なあ、帰るぞ。高槻。」 公一はそう言い残し、神社を後にして去っていった。義男もどうやらついていったようだった。 俺は、自分の目を疑う。ありえない、空間に手が飲み込まれるなんて…。けれど、目の前で事実、傷の男の手は片方、肘まで見えなくなっている。 そうしてしばらくすると、傷の男の手がだんだんと空間から出てきた。肘が見え、手首まで出てきて、その手が現れたとき、その手は何かを掴んでいた。 …人の、手だ!? しかしそこで力尽きたのか、傷の男の手からするりと抜け去り、何もない空間へと沈んでいく手…。そして押し広げられた空間も、すっと閉じてしまった。 力なく崩れ落ちる傷の男。何かを話しかけているシンの姿が見える。 俺は信じられないものを見てしまった恐怖に、その場を後にした。駆足で、息の切れるまで走り、家についた。 自分の部屋に帰ると、さっき見たことへの恐怖で足がすくみ、立っていられなくなった。 床に座り込む。自分の目で見たものが信じられない。何が何だかわからないまま、俺はしばらくそうして座り込んでいた。 「アツシ、帰ってるの?」 部屋に姉貴が入って来る。 「私、明日からいないから、何か用事あったら今日のうちに言ってよね。」 わけのわからないものを見てきた恐怖に怯えながら、姉貴はそう言えば明日から夏期講習かと、冷静に考える自分に少しびっくりする。 「姉貴!」 気がつくと、声を張り上げていた。 暫くの間、姉貴にさっき見てきたことを話す。 最初は馬鹿にされるかと思っていたが、意外と素直に話を聞いてくれた。 「アツシ、見間違いじゃないのよね。」 「あ、ああ。」 「右腕に傷の男か…まさかこの町に来るとはね…」 「姉貴、何か知ってるのか?」 「うーん、あんまし詳しくは知らないけれど、メル友から聞いたことがあるのよ。」 「どんなこと?」 「ちょっと待ってね」
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加