第1章

2/33
前へ
/33ページ
次へ
その夜、奇妙な夢を見た。 空気の匂いや、風の感触、色も鮮明な夢だ。 …とても悲しく苦しい、そんな夢だった。 俺はどこか知らない神社の境内にいた。 知らないはずなのに、なぜか毎日のように来ている、そんな思いのする神社だった。 俺は怒っていた。 どうしようもない怒りで、俺の心は張り裂けそうだった。 目の前には、数十人の男たち…。 彼らの目には、嘲笑や嘲りの表情が見て取れた。 …俺は彼らに対して怒っていた… 俺の振りあげた拳は、一番手近にいた男の頬を殴り飛ばし、それを合図に、俺は怒りのまま男たちの中へと走り出す。 誰かの蹴りが俺の背中を襲う。 それでもひるまず、目に映るものを殴り飛ばす俺。 倒れては起き上がり、しばらく後方で休んでからまたかかって来る男たち。 俺は男たちの拳や足で打ちのめされ、それでも怒りは収まらず、一歩一歩前へと進んで行く。 …何人を殴り飛ばしただろう…やっと、男たちの最後方が見えて来た。 俺の目に映ったものは、衣服を乱暴にやぶかれ、顔や腕に殴られた跡のある女性の、倒れている姿だった。 とても大きな悲しみがうねりとなって、俺の怒りに注がれる。 頬に涙が流れだし、とめどない。 「…!!」 俺は女性の名前を呼んでいる。叫ぶように、確かめるように。 「…!!」 名前を呼ぶ間も、容赦なく飛んで来る男たちの蹴りや拳。 「…!!」 女性の腕が、ピクリと動いた気がした。 男たちは手に鉄パイプやバットなどを持ちだして、俺を襲い出す。 俺の中で悲しみと怒りが加速、増幅されて、何かがはじけ飛ぶような感覚に襲われた。 俺の腕はとても強く、一振りで数人が吹きとんだ。 俺の足は俊敏になり、蹴り飛ばすたびに男たちは悶絶した。 俺の周囲にたむろする男たちの顔は、さすがに少しだけ恐怖が映る。 そのとき、これまで一切仕掛けて来なかった後方の男から、何か声が発せられた。 「…!!」 その言葉に、俺の周囲の連中は情欲をたぎらせるような目つきとなる。 さらに、女性の悲鳴…。 回りを取り巻く男たちの目つきが変った。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加