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恐怖にひきつる男の顔…。
だんだんと沈んでいく、男の体…。
女性は、身にまとっている少ない衣服をはぎ取った。
全裸の女性から放たれる、神々しい光り。
俺の周囲にいた男たちが、光りに引き寄せられる蛾のように、淫猥で虚ろな表情をして女性に近よって行く…。
さっきまで手首を捕まれていた男は、すでにその手首しか見えない…。
俺はその光景を目にしながらも、怒りと悲しみにつき動かされて、虚ろな目をした男たちを殴り続けていた。
視界の中、男たちが女性に群がっていく。
しかし近付く端から、男たちは見えない底無し沼に捕まったかのように、地面に沈みこんでいく。
そこへ来て、俺の頭にも理性が戻ってきた。
捕まえていた最後の男を離すと、その男はふらふらと女性の方へ歩きだしていく。
そして、地面に飲み込まれ、残ったのは俺と女性だけになった。
女性は目から血を流し、夜叉のような表情で、全裸のまま俺に近付いて来た。
ゆっくりと近付く、狂乱の夜叉…
俺は黙って立ちつくし、女性の歩みを見ている。
悲しさと愛しさとがせめぎあうように、心の中で渦巻く。
俺のそばまで来た夜叉は、ゆっくりと手を振りあげた。
その手が、急速に振りおろされる。
スパッと頚動脈の切れた感じがして、俺の首から血があふれ出す。
もう一度振りおろされる夜叉の手。
かわそうともがいた俺の右肩に、激痛が走る。
そしてもう一度、同じ傷をえぐられるような痛みが襲う。
首筋からの出血で、意識が朦朧となりかけた俺は、最後の力で女性の名を呼ぶ。
「…」
返ってきたのは右肩の激痛。
「…!」
くり返し名を呼ぶ。
「…!!」
叫びにも近い大声で、感情のまま彼女の名前を呼ぶ。悲しさと愛しさの感情…。
夜叉の表情が、一時ゆるむ。
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