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その隙に俺は、彼女の傍に這いずり寄り立ち上がる。
まだ血の涙を流す彼女に、俺は力強く抱擁する。
「…」
優しく名前を呼ぶ。彼女の表情に変化はない。
俺は、優しくキスをした。最後の思い出にと考えていた。
死を意識した俺は、その場に崩れるように倒れこんでいく。
視界の中に映る彼女は、正気を取り戻した様子でただ立ちつくし、やがて俺を見つけた。
俺の首に手をあてる彼女。
泣き叫ぶ声が聞こえる。
血は止まりそうもない…俺はこれで死んでしまうのかな…
彼女の叫びが、大気を震わせた気がした。
気がつくと俺は、病院のベッドにいた。
振り返る最後の光景…。
彼女の体が、何か見えない箱のようなものに閉じ込められていく。
視界からだんだんと消え去る彼女の姿。
去り際に、彼女は俺に微笑んだ。
それは優しく愛に包まれた笑顔だった。
「アツシ、大丈夫!?」
姉貴のゆりおこしで目が醒めた。夢だったのか…?
「どうしたの、なんか恐い夢でも見た?」
姉貴の表情から、寝ながら悲鳴でもあげていたんだろうと予想がついた。
何だか恥ずかしい…。
「…なんだか、生々しい夢を見た…」
「そう、大丈夫?」
姉貴は俺の背中をさすりながら優しく言う。
あれは本当に夢だったのか?それにしては…。
右腕に痛みが残る。袖をまくってみると、うっすらと逆さ十字の傷跡ができていた…。
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